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2026年におけるパンクとは何か? 二宮啓が提示するファッションの普遍的価値

「DSM kei ninomiya」2027年春夏コレクション

?芳之内史也

Image by: DSM kei ninomiya

Image by: DSM kei ninomiya

Image by: DSM kei ninomiya

 イタリア?フィレンツェの歴史を幾年にもわたり見守ってきた旧修道院「サントルソラ(Sant’Orsola)」に渦巻いていたのは、時代への不満と自由への渇望を孕んだユースカルチャーの衝動であった。メンズウェア見本市「第110回ピッティ?イマージネ?ウオモ(Pitti Immagine Uomo)」において、二宮啓が手掛ける「DSM kei ninomiya」の2027年春夏コレクションショーは、従来のランウェイの枠組みを解体するエネルギッシュな演出で幕を開けた。

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 かつてフランシスコ会の修道院であり、第二次世界大戦下では難民キャンプとして利用され、現在再開発中で2028年には美術館として生まれ変わる予定のこの特異な空間は、多様なバックグラウンドを持つ若者たちが集うコミュニティのように演出された。モデルたちは単に服を見せて歩く機械であることを拒絶し、空間を縦横無尽に移動。鉄格子に触れたり、互いの身体をぶつけ合ったり、時には観客席に深く腰を下ろして視線を交わすなど、観る者との境界線を曖昧にしながら既存のシステムへの静かな抵抗を表現した。

「DSM kei ninomiya」は、20年以上の歴史を持つドーバー ストリート マーケット(DOVER STREET MARKET)の理念「Beautiful Chaos(美しい混沌)」や、そのコミュニティの価値観を象徴するインハウスブランドとして誕生した。「セレオリ(セレクトショップのオリジナルブランド)」といえば、トレンドを無難に落とし込んだ手頃なベーシックウェアを想像しがちだが、同ブランドはそれらとは明確に一線を画している。多様なクリエイターやインディペンデントなカルチャーが交差するプラットフォームの思想そのものを、服として具現化する野心的なプロジェクトだからだ。そうして独自の歩みを進め、立ち上げから1年半、3シーズン目を迎えた今季、ブランド初となるランウェイショーが実現。毎シーズン特定のコミュニティに焦点を当てる同ブランドが、記念すべきショーのテーマに掲げたのが「OUR PUNK」である。

 川久保玲の公私に渡るパートナー、エイドリアン?ジョフィ(Adrian Joffe)CEOが執筆したプレスリリースには、「完璧さよりも参加することに意味がある。許可を求めず、社会的な慣習を気にせず、自らの選択を行い、新しい方法を模索する」という強いメッセージが込められている。これは単に1970年代のパンク?ムーブメントを懐古するものではなく、「2026年においてパンクであるとは何を意味するのか」という現代に向けた問いかけでもあった。

 二宮のシグネチャーブランド「ノワール ケイ ニノミヤ(noir kei ninomiya)」が主に抽象的なキーワードから造形を生み出すのに対し、「DSM kei ninomiya」はコミュニティという“人”のカルチャーを起点としている。そのためアウトプットは実生活に根ざしたワードローブに近いものの、決して平凡な日常着には着地しない。ランウェイに登場した衣服は、パンクの伝統的なコードを二宮の独自の造形技術によって鮮度のあるウェアへと昇華させたものだった。布地が見えなくなるほど無数の安全ピンがあしらわれたライダースジャケットをはじめ、ブランド独自にカスタマイズされたタータンチェックのファブリック、ボンテージパンツや粗いメッシュ素材が重なり、アナーキーなシルエットを形成していく。ショーではメンズモデルを起用したがコレクションはユニセックスで、タイトからオーバーサイズまで、あらゆる体型やジェンダーにフィットするよう設計している。

 「反骨」を単なるハードな表現に終わらせない対比の妙も光る。ストイックな前身頃に対し、後ろ身頃には優美なフレアが広がる純白のジャケットや、動きに合わせて軽やかに揺れるスカートが差し込まれた。この二面性はヘアメイクにも色濃く表れていた。ヘアスタイリスト兼ウィッグアーティストのパブロ?クミン(Pablo Kuemin)が手掛けたツンツンに逆立つ攻撃的なパンクヘアには、フラワーアーティスト東信による瑞々しい生花があしらわれている。トゲと花、鉄格子とフレア、反骨と純真といった相反する要素が、ひとつのスタイリングの中で見事に調和していた。

 多彩なコラボレーションも、今季の重要な柱だ。セックス?ピストルズ(Sex Pistols)のアートワークを手掛けたことで知られるグラフィックデザイナーのジェイミー?リード(Jamie Reid)のアートワークが衣服に落とし込まれ、特別なタイポグラフィ「Untitled, Untethered, Undefined」も披露された。「ショット(Schott)」とは、同ブランドのアーカイヴとヴィンテージのパンクジャケットに着想を得て、名作「Perfecto?」を二宮の視点で再解釈したレザージャケットを製作。さらに、ジュディ?ブレイム慈善財団との死後のコラボレーションにより、故ジュディ?ブレイム(Judy Blame)の象徴であるボタンの蓄積を用いた表現が取り入れられ、足元にはボタンのディテールを配した「ジョージコックス(GEORGE COX)」のシューズや、「ヴァンズ(VANS)」の最上級ライン「オーティーダブリュー バイ ヴァンズ(OTW by Vans)」の編み込みレザーによるチェッカーボードスリッポン、ジェイミー?リードのアートワークを配したフローラルプリントのスリッポンなどが、パンクの多様な側面を力強く底上げしている。

 ニューヨークのメンズレーベル「プリティ?レリックス(Pretty Relics)」との協業では、ヴィンテージTシャツに、ドーバー ストリート マーケットが出店している各都市へのオマージュとなるエクスクルーシブなプリントが施された。会場の空気を震わせたのは、ローマを拠点とする「ヴィラ?ロンターナ(Villa Lontana)」が考案したカスタムサウンド。ミケーレ?フェラーリによるアナログ機材を用いたライブ演奏に、ジェンダーを問い続けるアーティスト兼詩人トマゾ?ビンガ(Tomaso Binga)の音声詩が縫い合わされ、非線形なサウンドスケープが展開された。

 反逆のスタイルがファッションに吸収され、単なる記号やユニフォームとして消費される現代において、「DSM kei ninomiya」が提示したのは、パンクを「現状に対する独自の解釈と姿勢」として表現することだったのだろう。「時代がどう変わっても、挑戦し続けなければ前に進まない」という二宮の言葉通り、同コレクションは日常着の枠を超え、服の背景にあるカルチャーや歴史をデザインとして深く落とし込んでいた。制約の多い現代社会において、社会の慣習に縛られず、作り手も着る人も自由に選択し自分らしくあること。それこそがファッションの普遍的な価値であり、フィレンツェの地で高らかに宣言された「OUR PUNK」の真髄である。

DSM Kei Ninomiya 2027年春夏

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DSM Kei Ninomiya 2027年春夏コレクション

2027 SPRING SUMMERファッションショー

最終更新日:

FASHIONSNAP ディレクター

芳之内史也

Fumiya Yoshinouchi

1986年、愛媛県生まれ。立命館大学経営学部卒業後、レコオーランドに入社。東京を中心に、ミラノ、パリのファッションウィークを担当。国内若手デザイナーの発掘と育成をメディアのスタンスから行っている。2020年にはOTB主催「ITS 2020」でITS Press Choice Award審査員を、2019年から2023年までASIA FASHION COLLECTIONの審査員を務める。

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