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高橋盾とNIGO?の37年の歩みから紐解く、HUMAN MADEがアンダーカバーを買収する意味

?山田耕史

高橋盾(左)とNIGO?(2024年撮影)

Image by: FASHIONSNAP

高橋盾(左)とNIGO?(2024年撮影)

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高橋盾(左)とNIGO?(2024年撮影)

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 HUMAN MADEが、アンダーカバーの全株式取得に向けた基本合意書を締結することを決議した。株式譲渡契約の締結は9月、株式譲渡の実行は2027年2月を想定しており、取得が完了した場合、アンダーカバーは2028年1月期第1四半期からHUMAN MADEの連結子会社となる見込みだ。今回の決議は、単なるブランド買収にとどまらない。高橋盾とNIGO?という、1990年代の東京ストリートを象徴する2人の絆、そして「裏原宿カルチャー」の歴史と深く結びついた、記念碑的なディールである。

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文化服装学院での出会い

 1969年生まれの高橋と、1970年生まれのNIGO?が出会ったのは1989年のこと。場所は東京?代々木にある文化服装学院で、高橋はアパレルデザイン科に、NIGO?はエディター科に籍を置いた。FASHIONSNAPが2024年に行ったインタビューで、2人は当時のことをこう振り返っている。

NIGO?:学年はジュン(盾)くんの方が1つ上です。僕が当時、ラバーソールの靴とか履いていたら、「そういうの好きなんだ」って校内で声をかけてくれて。そこからですね。
高橋:存在感とか雰囲気がある人って、いるじゃないですか。最初に見た時に、なかなか他にない感じだったので「おっ!」と思って、声をかけたんです。それで話してみたら、「え、群馬なの?」って。
NIGO?:地元が同じだった(笑)。

 同郷という共通点もあり、2人の距離は急速に縮まった。その頃、高橋はセックス?ピストルズ(Sex Pistols)やザ?クラッシュ(The Clash)をはじめとするパンクバンドに傾倒し、自身も「東京セックス?ピストルズ」というパンクバンドを結成してヴォーカルを務めていた。高橋のニックネーム「ジョニオ」は、セックス?ピストルズのヴォーカリスト ジョニー?ロットン(Johnny Rotten)に由来する。一方、NIGO?というニックネームは、1980年代半ばからロンドンやニューヨークのストリートカルチャーを日本に紹介し、DJなどの音楽活動も行っていた藤原ヒロシに顔が似ていたことから「藤原ヒロシ2号=NIGO?」と名付けられた。高橋とNIGO?は、大貫憲章が主催していた「ロンドンナイト(LONDON NITE)」などのクラブイベントに出入りするようになり、藤原や「ミルク(MILK)」の大川ひとみといった東京のストリートカルチャーのキーパーソンたちと親交を深めるようになる。

 高橋とNIGO?は、1992年に雑誌「宝島」で連載「ラスト オージー 2(LAST ORGY 2)」を始めた。これは、藤原と高木完からなるヒップホップグループ「タイニー?パンクス(TINY PUNX)」による連載「ラスト オージー(LAST ORGY)」を引き継いだもので、2人が注目するファッションアイテムや音楽、映画などのカルチャーを独自の視点で紹介しており、インターネットもSNSも存在していなかった時代の若者たちにとって、貴重な情報源となった。

ノーウェアのオープンと裏原ブームの到来

 1993年4月に、高橋とNIGO?は東京?原宿のプロペラ通りと呼ばれる裏通りにショップ「ノーウェア(NOWHERE)」をオープンした。竹下通りや表参道といった多くの観光客や若者で賑わう表通りから一本奥に入ったそのエリアは、のちに「裏原宿」と呼ばれるようになる。藤原は2022年の対談で、同地域に若者がオーナーを務めるショップが集まった理由として、バブル崩壊後の賃料の安さを挙げている。

 ノーウェアの店内はふたつのエリアに分かれていた。一方は高橋が1990年に始動したブランド「アンダーカバー(UNDERCOVER)」の販売スペース。もう一方のスペースでは、NIGO?が海外で買い付けてきたアパレルやスニーカーなどを揃えていた。その後NIGO?は同年11月に、藤原が1990年に始めたブランド「グッドイナフ(GOODENOUGH)」のデザインを手掛けていたスケートシング(SKATETHING)と共に「A BATHING APE?(ア ベイシング エイプ?、以下エイプ)」を始動し、ノーウェアで販売するようになった。

 1994年に、高橋とNIGO?、そして藤原は雑誌「アサヤン(asayan)」で連載「ラスト オージー 3(LAST ORGY 3)」を開始。これまでと同じように最新カルチャー情報を伝えるとともに、自身のブランドについても紹介するようになり、グッドイナフ、アンダーカバー、エイプの人気はさらに拡大した。それぞれのブランドの新商品が入荷する際は若者たちが徹夜で大行列を作り、商品は即完売。テレビ番組などで人気タレントが着用したことも後押しとなり、二次流通市場では定価の10倍以上の価格で取引されるようになった。

神保町の古書店「マグニフ」で販売していた「アサヤン」。右は1990年代のもの(2026年2月撮影)

 ノーウェアの特徴は、それが単なるアパレルショップでだけではなく、一種のコミュニティのハブとして機能していた点にある。ノーウェアの周囲には、滝沢伸介の「ネイバーフッド(NEIGHBORHOOD)」や西山徹の「ダブルタップス(WTAPS)」、岩永ヒカルの「バウンティハンター(BOUNTY HUNTER)」など、藤原を中心とする仲間たちが次々とショップを開き、これらのブランドはいつしか「裏原系ブランド」と呼ばれるようになった。彼らは互いのブランドの服を着用してメディアに登場するだけでなく、ブランド同士でコラボレーションを頻繁に行い、限られた数量を販売するという独自のファッションカルチャーを形成していった。このカルチャーは日本だけでなく海外まで伝播し、ヴァージル?アブロー(Virgil Abloh)キム?ジョーンズ(Kim Jones)といったクリエイターたちに影響を与えることになる。

エイプ売却とヒューマン メイドの始動

 2000年代以降、高橋とNIGO?のクリエイションの方向性は大きく分岐していく。1994年に東京コレクションに参加したアンダーカバーは、2002年にパリコレクションに進出。高橋は1997年に毎日ファッション大賞の新人賞、2001年には同大賞を受賞するなど、デザイナーとしての評価を高めていった。また、高橋自身がランナーであることから2010年から始まった「ナイキ(NIKE)」とのコラボコレクション「ギャクソウ(GYAKUSOU)」や、2018年の「ヴァレンティノ(VALENTINO)」とのコラボでグローバルな認知度を高めたほか、2012年からユニクロや「ジーユー(GU)」との断続的なコラボコレクションを展開するなど、ブランドの多角化にも取り組んだ。

 一方、NIGO?は音楽プロデューサー ファレル?ウィリアムス(Pharrell Williams)と出会い、「ビリオネア?ボーイズ?クラブ(Billionaire Boys Club)」などのブランドを立ち上げたほか、カニエ?ウェスト(Kanye West、現Ye)をはじめとするヒップホップミュージシャンと親交を深めていく。エイプはアメリカを筆頭に海外に積極的に出店し、グローバルなストリートファッションブランドとしての地位を築いていった。

?ファレル?ウィリアムスとNIGO?(2025年撮影)

 2010年代に入ると大きな転換点が訪れた。巨額の負債を抱えていたエイプの運営会社を、2011年に香港のアパレル小売企業「I.T」が買収し、NIGO?は2013年にエイプのクリエイティブディレクターを退任した。買収のニュースは、裏原宿カルチャーが築いた一時代の終焉として、世界に大きな衝撃を与えた。

 だがNIGO?は、エイプ売却前の2010年に立ち上げていた新ブランド「ヒューマン メイド(HUMAN MADE)」で、新たなストリートカルチャーの提案を始めていた。自身が長年収集し続けてきたヴィンテージウェアの知見をベースに、日本の高度な職人技とキャッチーなグラフィックを掛け合わせた新たなストリートウェアを打ち出した。 さらに、2013年にユニクロのTシャツブランド「UT(ユーティー)」初のクリエイティブディレクターに就任したほか、2014年に「ユナイテッドアローズ(UNITED ARROWS)」とのコラボレーベル「ニゴールド バイ ユナイテッドアローズ(NIGOLD? by UNITED ARROWS)」を始動、「adidas Originals(アディダス オリジナルス)」とパートナーシップを締結するなど、次々と新たなクリエイションに取り組んだ。

 そんなNIGO?をフックアップしたのが、2018年に「ルイ?ヴィトン(LOUIS VUITTON)」のメンズアーティスティックディレクターに就任したヴァージル?アブローだ。ヴァージルは2020年秋冬プレコレクションで、NIGO?とのコラボコレクション「ルイ?ヴィトン LVスクエアード コレクション(LV?)」を発表。その後2021年に、ルイ?ヴィトンと同じLVMH傘下の「ケンゾー(KENZO)」が、NIGO?をアーティスティックディレクターに任命した。NIGO?は2022年に毎日ファッション大賞を受賞。2025年には「ファミリーマート」のクリエイティブディレクターに就任している。

2022年度毎日ファッション大賞受賞式

HUMAN MADE上場と35周年を迎えたアンダーカバー

 HUMAN MADEは、2025年12月に東京証券取引所グロース市場に新規上場した。上場時の資料によると、プロパー消化率はアパレル業界では驚異的な100%を達成しているほか、高い営業利益率を実現している。同資料では今後の長期的な成長戦略として「ブランド資産の価値が充分に利益につながっていない企業をM&Aする方針」を掲げており、同社が手掛ける初めてのM&Aが、今回のアンダーカバーの買収となる見通しだ。

 アンダーカバーは2025年に35周年を迎え、近年も映画やアーティストなどクリエイティブなコラボを積極的に行っている。パリでの新作発表を独自の形式で継続し、今年で24年目を迎えた。また、ジーユーとのコラボライン「UG(ユージー)」の名称を「GU × UNDERCOVER」に変更して継続しているほか、高橋は以前から取り組んでいる油絵の個展を開催するなど、幅広い分野でクリエイティビティを発揮している。

アンダーカバー2025年秋冬コレクション

未来は過去にある

 高橋とNIGO?のタッグが37年前と異なるのは、現在のHUMAN MADEに松沼礼 CEOが率いる盤石な経営体制が敷かれていることだ。事業拡大を視野に、今年4月にはダブルタップスを手掛けている西山徹をクリエイティブディレクターに据えた新ブランド「バッファ(Buffer)」を始動している。新たにアンダーカバーが傘下に加われば、裏原宿の主要メンバーが集い、まさにHUMAN MADEのブランドコンセプト「The Future Is In The Past(未来は過去にある)」を体現することになりそうだ。さらに、ファレル?ウィリアムスや現代アーティストのカウズ(KAWS)など、HUMAN MADEに参画する多彩なクリエイターらとの、新たなコミュニティとカルチャーの発展に期待したい。

2022年にNIGO?が開催したヴィンテージコレクションの展覧会で掲出していたパネル。「The Future Is In The Past」がテーマだった。

最終更新日:

FASHIONSNAP 編集記者

山田耕史

Koji Yamada

1980年神戸市生まれ。関西学院大学社会学部、エスモードインターナショナルパリ校卒。ファッション企画会社、ファッション系ITベンチャーを経て、主夫業と並行してフリーランスとして活動した後、FASHIONSNAPに参加。ファッションを歴史、文化、経済などの多角的な視点から分析し、知的好奇心を刺激する記事を執筆することが目標。

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