ADVERTISING

Image by: FASHIONSNAP(Photo by Kazuki Ono)

「点ではなく、線で積み上げる」K-POPアーティストのイメージを作り上げるヴィジュアルディレクターという仕事

?今井祐衣

Image by: FASHIONSNAP(Photo by Kazuki Ono)

 アーティストのヴィジュアルは、衣装やヘアメイクだけで決まるものではない。楽曲の世界観、活動ごとの見せ方、メンバーそれぞれのキャラクターまでを踏まえながら、全体をどう設計するかが問われる。その役割を担うのが「ヴィジュアルディレクター(以下、VD)」だ。韓国のエンタメ業界では一般的なこの職能も、日本ではまだ十分に認知されているとは言い難い。韓国系大手事務所の日本法人でアーティストのヴィジュアルマネジメントに携わり、自身でも衣装会社を手掛けるAMPWORKS代表の鹿野博一氏に、知られざるVDの実像、そしてなぜ今その視点が必要なのかを聞いた。

ADVERTISING

──アーティストのヴィジュアルディレクターとは、どのような仕事ですか?

 日本ではまだ浸透していない職種ではありますが、韓国の大手芸能事務所では、アーティストのヴィジュアルを統括するVDが置かれることが多いです。主な役割は、活動時のヴィジュアル全般をディレクションすること具体的には、ヘアメイクやスタイリングの方向性を決めたり、音楽番組やファッション関連の撮影、イベントなどの現場に立ち会って、アーティストをよりよく見せるための判断をしていきます。事務所によっては、ヴィジュアルクリエイター(VC)と呼ぶ場合もあります。

AMPWORKS代表 鹿野博一氏

──VDのプロジェクトへの関わり方は?

 役割はかなり明確に分かれています。コンセプトを作るプロデューサーがいて、A&R(音楽プロデューサー)が曲を決め、パフォーマンスディレクターが振付けを作る。そのうえで、VDである私たちが衣装やヘアメイクを含めたヴィジュアル全体の方向性を考えます。

 K-POPのアイドルグループはデビュー当初からコンセプトが決まっている場合が多く、爽やかさやナチュラルさを押すコンセプトだったり、ダークな世界観だったりさまざまです。そこをベースとして意識しつつ、新曲ごとのムードに合わせたスタイリングを決めていきます。MVの衣装をそのまま音楽番組で使うこともありますが、番組ごとに見せ方を変えることも多いです。コンセプトやムードから外れない範囲で変化をつけて、活動期間を通してグループの印象を積み上げていくイメージです。

──具体的にどういった実務を担っているのでしょう?

 例えば、いわゆる"カムバ"と言われる新曲リリースのタイミングでは、まず新曲のコンセプトや楽曲が共有され、VDがスタイリングのムードボードを作ります。

 同様に、ヘアメイクのレファレンスもVDが用意します。ヘアメイクチームには、ヴィジュアルの背景にあるイメージも含めて共有します。たとえば、「砂漠で戦っているイメージ」「日焼けしている感じ」「暑さを感じる雰囲気」といったように。私が担当しているグループでは、単に資料を渡すだけではなく、世界観を言語化し、メンバーごとの顔立ちや雰囲気に合わせて、どう落とし込んでいくかチームで話をしながら詰めていきます。

──コンセプトが固まったら実際に着用衣装をどのように決め、調達するのでしょう?

 MVは世界観を強く打ち出すので、衣装もある意味でコスチューミーになりやすいです。一方、音楽番組ではもう少しリアリティを持たせています。また、パフォーマンスにもよります。なのでパフォーマンスディレクターと相談しながら、動きと見え方の両方のバランスをとっていきます。音楽番組でのパフォーマンス時は、動きや運動量が多いのでブランドから衣装を借りるのが難しいこともあり、購入か自前で制作する場合が多いです。

──アーティストマネジメントにおいて、なぜVDのような役割が必要なのでしょう?

 韓国ではグループアーティストを「中長期でブランディングしていく」という考えが軸にあります。ヴィジュアルがブレ続けるとファンや見ている人にグループのイメージがなかなか定着しない。なのでVDのように、その連続性を見ていく立場の人間が必要なんです。

 もちろん、スタイリストさんやヘアメイクさんはとても重要な存在ですが、大半の方々は他のアーティストも担当されていて、適材適所でアサインされことも多いため、グループの中長期戦略まで見きれないことがあります。私が担当している大人数のグループでは、メンバー一人ひとりの要望を受け入れすぎると、チームとしての表現や全体の統一感が崩れてしまうという難しさがあります。だからこそ、「今はこの方向で見せるべき」と中立的な立場から全体を見渡し、アーティスト、外部スタッフ、事務所の間をつなぐVDの役割が重要になってきます。

──日本と韓国の制作現場ではどのような違いがありますか?それぞれの良さや、逆にこうした方がいいのに、と思う場面などはありましたか?

 あくまで音楽性ではなくヴィジュアルの作り方でいうと、韓国式のひとつの強みが「ディレクションが明確にあること」という点です。何を目指しているのかが整理されている分、各部署、スタッフ、アーティスト本人が同じ方向に進みやすくなります。

 日本では、制作の際、柔軟さやスピード感が強みになる一方、例えばMVなどの撮影で何を撮るかが十分に見えないまま衣装の準備が始まることも多々あります。曲や構成が固まりきっていない段階で撮影日だけが先に決まっていることも多く、どんな表現を目指しているのかを理解するのが難しいことがあります。これは衣装制作の現場に長く携わってきたからこそ感じてきた点です。

 ただ、韓国ではデビュー時にグループコンセプトがガッチリ固められている分、デビュー後の軌道修正はしづらく、日本のほうが市場の変化にクイックに動けるメリットもあります。どちらが良く、どちらが悪いということではなく方法論の違いですが、日本の音楽産業が海外に向けた発信力を高めていくには、デビュー当初からディレクションの設計を丁寧に組んでいくことが大切だと思います。

──日本の音楽業界が参考にできるのは、どのような部分でしょうか?

 K-POPの見た目をそのまま真似すべきというわけではなく、アーティストマネジメントにおける戦略の立て方は学ぶ点が多いと思います。ディレクションが存在し、そのうえでクリエーションが進んでいく。目の前の案件を点で処理するのではなく、計画と文脈を持って点を線で積み上げることが大切だと思います。

 実際、日本でも、お世話になっているスタイリストさんやヘアメイクさんの方から「この現場にはVDが必要だ」という声や、その役割が求められることがしばしあります。ディレクションが明確であれば、現場のクリエイターも目的を理解し、良いアウトプットに繋がっていくと思います。

──ご自身はどのような経験を経てVDの仕事にたどり着いたのですか?VDという職種とはいつ出会ったのでしょう?

 大学卒業後に服飾を学び、自分でブランドを立ち上げてから同時に衣装の仕事を受けるようになり、会社を作りました。最初は、発注されたデザイン画を形にする仕事が中心で、現在に至るまでも、日本のアイドルグループのツアー衣装やMV、音楽番組用の衣装制作に携わらせていただきました。

 衣装の仕事を続けるなかで、発注指示が曖昧なまま進むことに、違和感を感じることがありました。デザイン背景や意図が見えないまま作ることもある。そうしたモヤモヤを感じてきたので、ただ降りてきたデザインを納品するだけではなく、こちら側からムードボードやディレクション資料を用意し、クライアントと認識をすり合わせるやり方に変えていくことで、お互いにとってより満足のいく衣装を提供できるようになったと思います。

 個人的には次第にK-POPにも興味を持つようになりました。純粋にクリエイティブの質の高さに衝撃を受けたんです。この波が日本にも来ると確信があったので、きっかけを探していました。そんな時、ある事務所から新しいグループがデビューするタイミングでチームに加わることになり、VDの仕事を知って。1から学ばないといけないこともありましたが、これまでの経験を生かせる分野だと思いましたし、自分が現場で感じていた課題に対する一つの答えだと感じて、躊躇なく飛び込みましたね。

──VDとしての経験を積むなかで、この仕事に必要なスキルとは具体的に何でしょう?

 まず前提として、音楽とファッションが好きであること。私も誰かがデビューしたと聞くと、音楽はもちろん、つい衣装やヘアメイクを見てしまう。そういうアンテナを張っていることは大きいです。

 そのうえで大事なのは、ディテールを理解していることです。私はヘアメイクに関しては実際に施すことはありませんが、ベースメイクの考え方も、踊っても崩れにくい髪の作り方も理解しています。何がどう作られているかを知らなければ、解像度の高いディレクションはできないと個人的には思うからです。ただ、全部を自分でやる必要はありません。ゴールを描いたうえで、プロにはプロの力を十分に発揮してもらえるよう、現場でコミュニケーションを取りながらチームとして調整していく力が必要だと思います。

──VDとしての経験や衣装デザインで培ってきたノウハウを今後どのように繋げていきたいですか?

 自分の会社のなかにも衣装ディレクターという職種がありますが、今後はもっとVD寄りの仕事ができる人材を育てていきたいです。各事務所と業務委託といった形で連携しながら、企画、ディレクションから制作までをワンストップでつなげられる形が理想です。

 個人としての仕事を増やしたいというより、業界全体でVDの必要性が共有され、ノウハウが広がっていくことが重要だと感じています。日本の音楽産業が、国内外でもっと競争力を持っていくためには、戦略的なアーティストマネジメントのシステム構築が必要だと感じますし、その一端をヴィジュアルクリエイティブの観点から盛り上げていけたらと思っています。

最終更新日:

ADVERTISING

現在の人気記事

NEWS LETTERニュースレター

人気のお買いモノ記事

公式SNSアカウント