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食パンをかじりながら歩く女子高生にジョブズ? ダブレットがパリで目指した生活の提案

Image by: doublet

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 パリの地下空間、スモークが立ち込める仄暗い会場に響き渡ったのは、一日の始まりを告げるニワトリの鳴き声。井野将之が手掛ける「ダブレット(doublet)」の2027年春夏コレクションは、「A DAY IN THE LIFE──未来素材、日常へ」というステートメントのもと、ごくありふれた日常の風景の中に潜む、少し先の未来の「当たり前」をランウェイに描き出した。これまでも独自の視点でサステナビリティや最新技術に向き合い、驚きを提供してきたダブレットだが、今季はその歩みをさらに一歩押し進め、新素材を声高に主張するのではなく、それらが人々の生活に完全に溶け込んだ日常の世界を表現した。

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 コレクションの軸にあるのは、「空気」「木」「炭素」「バナナ」といった素材を用いたマテリアル群である。2026年秋冬で披露した大阪の素材メーカー、プレジール(PLAISIR)が開発した、天然ガス由来のメタノールをベースにしつつ大気中の二酸化炭素を水素と反応させて生成する「POM(ポリアセタール)」繊維の「ゼフィル(ZEPHYR)」を用いたボーダー。あるいは、2022年春夏でも発表したバナナの繊維と木由来のセルロースに炭糸を合わせたツイード。これらは本来であれば大きく喧伝すべき未来素材ばかりだ。しかし、今回の井野はそれらを特別視しない。ヨガマットや札束のクラッチバッグ、フードデリバリーの配達員ウェアなど、過去のコレクションで登場したアイテムを意図的に再登場させることで、「見慣れた日常」を表現している。「車そのものを売るのではなく、車のある生活を提案する」というデザイナーの言葉通り、新素材という「モノ」の凄さをアピールするのではなく、そうした未来の素材をごく自然にまとって過ごす「生活」そのものを提案した。

 ショーは、同一のモデルが3度の早着替えを行い、朝起きて仕事や学校へ向かい、帰宅するといった一日の移ろいを軸に展開された。食パンをかじりながら足早に歩く女子高生や、クリーニングの引き取りに向かう者など、雑多で愛すべき日常の群像劇の中に、ブランド特有のユーモアとギミックが光る。キスマークが施されたVネック、シャツとウエストポーチの一体化、ブラジャーを模したバッグ、そしてコンサートの熱狂を閉じ込めたかのような花吹雪が張り付いたパンツなど、視覚的な楽しさは健在である。「プーマ(PUMA)」との協業においては、ドイツ本社の食堂を仕切る名物スタッフをモデルとして招き、「迷子のプーマ」を探すという心温まるストーリーをコレクション内に忍ばせた。

プーマとのコラボ。いなくなった猫が3ルック目では見つかり、フーディーのポケットに隠れている。

 中でも観客の目を引いたのは、スティーブ?ジョブズを彷彿とさせる、一見すると同じ装いの人物の変遷である。朝は古着のデニムから抽出したリサイクルインディゴを用いたしわくちゃのタートルネック。昼はシンフラックス(Synflux)との協業により、りんごの皮を剥くようなパターンメーキングで生地の廃棄をなくし、夜は粉砕したデニムにフロッキー加工を施したボトムスに、最高級シルクのタートルネックを合わせる。外見の印象は変わらずとも、時間帯によって衣服の成り立ちや機能が全く異なるというこのアプローチは、ミニマリズムの中に潜むマテリアルの進化を見事に体現していた。

 ショーの終盤、一人のキャラクターの朝?昼?晩を表現するための過酷な早着替えという舞台裏のミッションを成功させた末に、再び響き渡ったニワトリの鳴き声。それは一日の終わりであると同時に、新たな日常の始まりを告げる日々の巡りであった。特異なギミックやユーモアというブランドの揺るぎないアイデンティティを守りながらも、過去に培ってきた技術を日常着へと落とし込み、地球環境との共生という重厚なテーマを軽やかに人々の生活へと落とし込んだ今季の「ダブレット」。日本人デザイナーとして独自の迂回路を歩みながらも、世界で闘い続ける井野将之のクリエイションは、ファッションが指し示すべき未来を、誠実かつユーモラスな形で我々に提示してみせた。

doublet 27年春夏

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doublet 2027年春夏コレクション

2027 SPRING SUMMERファッションショー

最終更新日:

芳之内史也

Fumiya Yoshinouchi

FASHIONSNAP ディレクター

1986年、愛媛県生まれ。立命館大学経営学部卒業後、レコオーランドに入社。東京を中心に、ミラノ、パリのファッションウィークを担当。国内若手デザイナーの発掘と育成をメディアのスタンスから行っている。2020年にはOTB主催「ITS 2020」でITS Press Choice Award審査員を、2019年から2023年までASIA FASHION COLLECTIONの審査員を務める。

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